
弊社では長年、50代以上のベテランエンジニアの方々に向けて、主にレガシィ系のシステム案件をご紹介してきました。
COBOLやPL/1、汎用機アセンブラなど、いわゆる“昔ながら”の技術に精通した方々が活躍できる場を探すことが、私たちの強みでもありました。
ところが最近、案件の条件と応募者のスキル・年齢が噛み合わないケースが増えてきたように感じています。
数年前までは、「この方ならこの案件に合いそうだな」と思えるものが少ないなりにもあったのですが、正直なところ、今はその“合いそうな案件”自体が”見つからない”印象です。
そこで今回、弊社に届いた案件の傾向を少し調べてみることにしました。
調査対象は、2023年と2025年の7月・8月に弊社に届いた案件のうち、年齢に関する記載があるものに絞りました。
(※年齢記載のない案件は「年齢不問」とは限らないどころか、確認すると年齢制限されてたりする事例が多いので、今回は除外しています)

結果として、50代後半〜60代向けの案件は、件数・比率ともに減少傾向にあることがわかります。
– 50代後半以降+年齢不問の案件数は、2023年比で2025年は約14%減
– 60代+年齢不問に絞ると、約36%減
– 全体に占める割合も、5.0% → 4.6%と微減
つまり、ベテラン層向けの案件は確実に“狭き門”になってきているようです。
次に、これらの案件の技術内容を見てみました。

2023年時点では、COBOLやPL/1などのレガシィ言語が約44%を占めていましたが、2025年には15%弱まで減少。
一方で、Javaなどのオープン系言語が約40%を占めるまでに増加しています。
基盤についても同様で、オープン系の割合が増えており、汎用機基盤も一部増加しています。
これは、マイグレーション案件が増えていることの表れかもしれません。
案件の技術的なシフトに伴い、求められるスキルにも変化が出てきています。
レガシィ系の案件であっても、単に言語が使えるだけでは足りず、業務知識やマイグレーション経験、ツールの習熟度、リーダー経験などの“プラスα”が求められるようになっています。
これはオープン系の案件でも同様で、「Javaが書ける」だけでは通用しません。
フレームワークの理解、業務スキル、チームリードの経験など、より総合的なスキルセットが必要です。
案件に参画できるかどうかは、プロジェクトの要求とどれだけスキル・経験がマッチしているかが鍵になります。
とはいえ、これは「過去どんなプロジェクトに関われたか」という“運”の要素も大きく、事前に対策を打つのが難しい面もあります。
だからこそ、参画したプロジェクトで新しい環境やツールに出会ったときには、積極的にスキルを身につけておく姿勢が大切だと感じています。
現在、オープン系言語案件の約7割はJavaが中心ですが、今後はAIを活用した「バイブコーディング」のような開発スタイルが主流になる可能性もあります。
そうなると、言語スキル以上に、生成ツールの活用力や設計力といった“抽象度の高いスキル”が求められるようになるかもしれません。
もしかすると、「過去の経験だけでは案件にありつけない時代」に突入しているのかもしれません。
技術の変化にどう適応していくかが、今後のキャリアを左右する大きな要素になっていくでしょう。
弊社としても、こうした傾向を定期的に把握しながら、ベテランエンジニアの皆様に向けた情報提供を続けていきたいと思っています。

ミドル・シニアのSEに仕事を紹介をしてきて、やはりレガシィ案件の傾向は気になるところ。
コロナ禍を過ぎて、ここ1年余りのCOBOL案件の変化がどうなっているのか調べてみました。
調べ方としては、過去分析してきた方法と同じで、
(1)弊社に来ている案件で、COBOL開発案件を対象(汎用機、オープン問わない)
(2)案件に記載のある年齢条件でも分類
をしてみました
2023年4月の案件数を1として、2023年1月~2024年4月までのCOBOL案件の件数推移をグラフ化してみました。(図1)

月ごとに件数変動はありますが、近似曲線を描かせると、暫時低減傾向にあり、2023年4月と2024年4月の件数を比較すると2割ほど減ってきています。
やはりCOBOLでの開発数は確実に減ってきているようです。
汎用機の開発を停止していくベンダーの動きもある中で、COBOL資産のさらなる追加や改修は必要最小限に
抑えたいところではないでしょうか。特に国産ベンダーの顧客はマイグレをどうするのかというところに焦点が移っているような気もします。
同時に2024年の1月-3月期案件における、年齢条件等に変化はあるのか
こちらは、2019年からの傾向も合わせて比較してみました。(図2)
なお年齢分類は下記5分類でまとめています。
・40代までの年齢制限記載があるもの(30代まで、20代までの制限もこちらに含む)
・50代前半までの〃
・50代後半までの〃
・60代前半までの〃
・年齢制限記載がない案件
記載がない案件というのは、年齢不問という意味ではなく、単純に案件に年齢記載がない案件を数えています。

2024年1月ー3月期を分類してみると、”年齢条件記載無し”が6割近くを占め、50代後半まで(16%)、50代前半まで(12%)、30代、40代迄(11%)、60代前半まで(10%)という割合順になっています。
2019年からの傾向で見ると、
・年齢記載無しの案件が増える傾向にあること、
・必ずしも30代、40代条件が増えているわけでもない
ことが解ります。
年齢条件よりは、スキルや人間性というところに重きが置かれているのかも知れませんし、永続的にCOBOLを使っていく、そのために若手がほしいという顧客が少なくなってきていることの裏返しかもしれません。
案件が少なくなっている中で、ベテランのCOBOL人口は増え続けていると思います。
そんな中で、COBOL言語で開発ができる以外に、どういう+αを持っていて,アピールできるかが案件に参加するうえで、重要な要素になってくるのではないでしょうか。
自分の得意分野や、ある意味不得意分野の濃淡をつけて、それにマッチした案件でアピールしていくことが、今後も求められていくのではないかと思います。
永く開発をしてきた方には何かしら得意分野があるはずです。案件に応募する前に、今一度自分の強みは何かと問いかけてみてはいかがでしょうか。

コロナも5類となり、日常生活が少しづつ戻ってきている。
少子高齢化がどんどん進んでいく中で、長期的にはシニアの就労への役割は高くなって
いいはずであるが、案件の年齢状況を見ると、なかなかそうなっていないようだ。
そこには、年齢が高い人に対するステレオタイプ的な見方(バイアス)があるようにも思う。
ネガティブバイアスであれば、生産性が低い、新しい環境への適応力が弱い、といった能力
に対しての面や、年上に指示は出しにくいといった心理的なバイアスもあるであろう。
能力の面で、年を取ると生産性が低いのかについて今回調べてみた。
年齢と能力(intelligence,ability)の研究は長い間行われてきており、
最もポピュラーな分析は知能を流動性知能と、結晶性知能に分けて分析するやり方である。
多くの知能検査もこうした理論やその派生理論に基づいて行われてきているようである。

(図1 流動性知能と結晶性知能、年齢による変化)
流動性知能とは、生まれつきの能力とも言われ、短期記憶に能力に依存し、脳の伝達速度に
由来する能力で、情報の処理スピード、直観力、法則を発見する能力、図形処理能力、
記憶力等が当てはまる。いわば、ハードウエアとしての脳の能力を示す。
こうした能力の一部、例えば数的処理能力は20歳前後にピークを迎えるらしい。
子供が暗算のスピードや、知識の量や蓄えるスピードをテレビなので見るといつも関心させられる。
但し、流動性知能の中でも知覚速度や空間認知といったの能力は、60才ぐらいまでは維持され
ゆっくり下がってくるとわかっている。
結晶性知能は、後天的で、長期記憶の能力に依存し、知識の獲得と技能・経験の習熟によって
成長しつづける能力で、言語能力、理解力、洞察力のような能力が当てはまるようである。
大手企業の会社の経営者も50代、60代が多いし、こうした方々が話しているのを見ると重みや、
深さを感じるのはそういうことであろう。

(図2 6つの能力の年齢による影響)
グラフを見ると、得意な仕事の分類、苦手な仕事の分類が見えてくる。
やはり、長い年月をかけて獲得された経験に関連した仕事遂行は得意だろうし、
言語理解能力も深まることから、言語化する仕事、言葉によって伝える仕事、
例えば、プロジェクト監査やプロジェクト支援、プロジェクト調整が向いているのかも知れない。
設計等も、過去の経験、知識が活かせ、経験的評価が活きる場面では向いているのだろう。
処理スピードについては、遅くなるので、速度を求められる仕事や、新しい分野の習得については
若い人とは同じ速度ではできないのかも知れない。
PCやスマホを打つスピードも、やはり若い人にはかなわないだろう。
ただ速度は遅いけれども、熟考しながら進めて行くことで、ミスや手戻りを減らしカバーできる仕事であればOKだ。
新しい分野の習得(例えば新しい言語の習得)についても、難しいというわけではなく、
若いころより時間がかかるというレベルだろう。
iPhoneのゲームアプリ「hinadan(ひな壇)」を作った有名な若宮さんは、81才からプログラミングを学び始めたようであり、スピードを求められなければ、60代でも、30代、40代と変わらないか、経験や知見をもとにした仕事であれば、それ以上の能力を発揮できる可能性があるということが確認されているのだ。
こうした能力には個人差があり、かつ年齢が高くなるにつれ、ギャップも大きくなるようだ。
結晶性知能も、後天的な能力であるので、使われなければ、落ちてくる。流動性知能についても同様で個人差もあえば、訓練によって維持していくことも可能なようだ。図3は知能試験での年齢別の分布を示したものである。一般的知識に関しては平均はゆっくりと下がっているが、分布幅を見るとほぼ平行であり年齢差は顕著ではない。一方情報処理速度については、分布幅も顕著に右下がりではあるが、個人差があり、60才でも速い人であれば、40才の平均ぐらいの処理速度を備えている。

今回は年齢における能力差についてみてみた。スピードや量といったハードウエア的能力については、次第に落ちてくるも、仕事を遂行していくための能力については、年齢による影響は60代までは、影響はない、さらに延びていく能力もあることを見て来た。またそうした能力を維持、強化していくためには、能力を使っていくことが大事であることを述べた。
心理学者のシャイエ(図2の研究を行った学者)は、こうした能力を維持するためには下記の心得や環境が必要だと述べている。
・複雑で知的刺激が多い環境にあること
・柔軟な生き方をすること
・脳の情報処理の早さを維持すること
こうした環境、生き方を進めていくためには、’どう老年期を生きたいかの選択’によるところも大きいようにも思う。働くことの意味付けも若いころと異なるであろう。次回は、老齢期における仕事をすることの意味についても考えてみたい。
参考文献
:「知的機能の変化と適応」 東京大学ジェロントロジー研究会
:知能の複数の下位側面(佐藤眞一(2006)2)より引用
:知能のエイジングに関する研究の動向 日本老年社会科学会 西田 裕紀子
:高齢者心理学、北大路書房
:最新老年心理学 : 老年精神医学に求められる心理学とは ワールドプランニング
:発達心理学Ⅱ 東京大学出版会
:新・発達心理学ハンドブック = HANDBOOK OF DEVELOPMENTAL PSYCHOLOGY 福村出版
:Handbook of the psychology of aging Ninth edition (The handbooks of aging)